<南風>唄道


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 ドレスの裾と私の髪を揺らす12月の風。気温一桁の野外ステージは気合が必要だ。去年と同じイベントに出演するため、私は熊本に来ていた。会場には人工降雪機があったが、3日前に本物の雪が降ったばかりだった。大きな雪だるまの周りには小さな笑顔がキラキラと走り回っていた。その姿を見守る皆も笑顔だ。「沖縄の子供達にも見せたいな」

 島育ちの私は、中学の修学旅行で初めて空から降る雪を見た。あの感動は素晴らしかった。薄着なまま皆旅館の外へ飛び出し歓喜した。憧れという名の無い物ねだりなのだろう。雪国は毎年の豪雪に悩まされているのだろう。無い物ねだりなら、島育ちの私は皆に何を与えられるだろうか。やはり唄で心を温めること。

 風に吹かれて、三線を弾く手がまるで別人の手のように勝手に動く。寒い。言いたくはないが、寒い。けれど不思議とステージの上だと平気だった。お客さん、スタッフの皆さんがステージに向ける視線が、本当に温かで穏やかに感じた。寒空の下、サイン会に並んでくれた方達の温かい笑顔。お小遣いで初めてCDを買うという女の子。嬉(うれ)しすぎて思わず抱きしめた。

 震災後の仙台での出来事を思い出した。「全て流されて綾乃さんのCDが1枚目です」。そう話してくれた女性の切なくも美しい笑顔を。数年前、私にくまモンをくれた女の子は元気だろうか? また会いたい。だからこそ私は唄い続けなければならない。使命だと思っていた唄道。ある先輩は、それは綾乃の宿命だとも言った。

 この記事が掲載される頃、私はCD発売記念ツアーファイナルも終えて、次へのエネルギー補給をしていると思う。ステージの感想も書きたいけれど、これで最終回。このコラムがきっかけで出会えたご縁に感謝します。ご愛読ありがとうございました。またやーたい。
(上間綾乃、歌手)