<南風>ラテンの美学


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 打楽器奏者の私はラテン音楽の仕事が多かったので、中南米の国にはかなり旅をしました。中でも印象深い国はキューバです。

 初めてキューバに行った時は一番厳しい経済制裁を送っている時期で、物が無い!ということを身を持って感じました。そんな時でもキューバ人は明るく楽しそうでした。3カ月近い滞在中に、いろんなラテン的考え方を学びました。

 よく口癖のように耳にしたのが、「明日やれることは明日やれ!」です。こんなことを日本の社会で口走ったら叱られますね。しかし、今では忙しい時に自分に密(ひそ)かに言い聞かせる、宝のような言葉となっています。地域のみんながこれを美学と思っているのです。

 私がよく耳にした理由は、明日やれることを今日やろうとした回数が多かったからでしょう。今日のことだけをやって、酒を飲んで踊るのが一番素敵な暮らし方だ!というわけです。

 半面、こんな言葉もあります。「明日死んでも後悔しないように今日を生きろ!」

 ラテン民族は常に死を感じながら生きています。それは決してネガティブではなく、必ず迎える死を感じることで、生きている今!の喜びを確認する行為です。それがラテンの人たちのパワーの源なのです。

 物が無かったキューバ国民に対し、カストロ議長が、ラム酒と葉巻と音楽があるから楽しめるじゃないか!と言ったとか。物が無くても、キューバの国民は楽しんでいました。豊かとは何かを考えさせられました。

 宮古島に移住して5年目。ラテン民族に似た気質を感じることがよくあります。きっと土地柄、昔からの知恵が生んだ考え方が宮古島にもあるのです。だからこそ、世の中の常識よりも地域特有の考え方を学ばせていただきたいと思っているのです。この先は、宮古島で学んだことが私の宝物となっていくのでしょう。
(江川ゲンタ、打楽器奏者 宮古島大使)