<南風>学生の心に残る何かを


社会
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 学生が書いてくれた授業コメントを読んでいる。今日も言葉足らずで説明下手だったと反省し、次の授業づくりのヒントをもらう貴重な時間である。学生の意外な面や成長を見せてもらえることもある。学生からのフィードバックはどんな意見も有難いし面白い。

 ある学生のコメントを読み、記憶に残る二人を思い出した。一人は私が大学生だった時に「現代音楽論」を担当していた先生。授業内容を正確には覚えていないが、毎回、LP盤でいろんな楽曲を聴かせてくれた。レコードに針が触れた時のプチプチという音が何とも心地よかった。楽しそうに音楽を語るその表情が印象的で、「音楽を通して人を幸せにしたい」という信念を強く持った先生だった。

 もう一人は予備校に通っていた頃に「英語」を担当していた先生。軽やかにステップを踏むようにリズムよく板書が始まり、しばらくするとアルファベットの黒板アートが出来上がる。流暢(りゅうちょう)な発音で話し続ける先生の授業は、まるで演劇を観(み)ているかのようだった。「語学を学ぶということは異文化や多様性を学ぶこと」が口癖で、授業の合間に自らの海外体験談を挟んでくれた。苦手克服のために通った予備校で、受験英語だけではなく学ぶことの面白さを教えてもらった。

 いま目の前にあるコメント用紙に「先生が心理学のことを熱く話しているのを聞いていて楽しくなった」とある。その理由を読み、予想外の内容で驚かされる。余談のつもりで話したことへの反応。それも有り難い。専門知識や技術を身につけるだけでなく、何年か経(た)った時にふと思い出せるような「何か」を、授業を通して学生に残せるだろうか。自分にとって好きなこと、重要なこと、関心があることを生き生きと語る姿を見せていただいた二人の先生のように。そう願いながら今日も授業の準備をする。

(吉川麻衣子、沖縄大学准教授 臨床心理士)