<南風>学術のキーストーン


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 大学は人材育成のみならず、教員と学生たちの創造的活動の現場だ。他方で、専門分野を超えて研究者たちが行き交う拠点という顔も持つ。

 私がかつて所属した人類生態教室には、霊長類分野以外の教員や大学院生、若手研究者が数多く立ち寄った。イザイホーやユタ、琉球方言や八重山古謡、闘牛と放牧、モズク養殖とウミンチュ、サンゴ礁と生物など、彼らのテーマは実に多様だった。野外調査経験の浅い若手研究者にとっては、格好の訓練場ともなった。実際、琉大で現地調査のノウハウを学び、海外へ旅立っていった若手研究者も多かった。地域特性溢(あふ)れる沖縄とそこに立つ琉大は、調査地として共同研究相手として人気が高かった。

 昨年11月、島にある大学のメンバーによる研究集会が琉大で開かれた。英国、フランス、スペイン、マルタ共和国、ドイツ、カナダ、米国、パラオなど、12の国や地域から100余名の研究者らが参加し、活発な討議が行われた。初めての日本訪問が沖縄という方々もいて、関心の高さを実感した。彼らとの交流から、地域や言語、社会制度は異なっても、島が持つ共通の課題があることに気づかされた。大学進学で島を離れる若者たち、過疎化と産業振興、教育と社会、水問題、エネルギーや自然環境の問題など、あちらの問題は私たちの問題でもあった。

 島の課題は、どれもが複雑に絡み合うという。有人無人の160の島々から成り、多様な自然と固有の文化や生活様式を持つ魅力あるフィールドの沖縄。7学部9研究科の総合大学としてアジア・太平洋地域の拠点を目指す琉大。この二つの“掛け算”でどんな未来が開けるだろうか。島に関する文系×理系の研究から、世界の問題を解決する糸口が生まれる可能性もある。沖縄が学術のキーストーンとなるのも夢ではない。
(新田早苗、琉球大学総合企画戦略部長)