<南風>粋な文化


社会
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 毎年11月に、東京は浅草の鷲神社で酉(とり)の市という催しがあります。熊手を納め、熊手を買う祭りです。多くの商売人で賑(にぎ)わいます。

 熊手は、商売繁盛の縁起モノとして、幸せやお客様やお金をかき集める、という意味合いがあります。

 酉の市には、私の大好きな粋な文化が残っています。毎年、同じ店で買うのが心意気。そして、去年よりも少しでも高値の熊手を買うのが常とされています。去年は1万円の熊手だったら、今年は1万2千円ぐらいのものを!と値札のない熊手から去年よりちょっと上等な熊手を選ぶのです。

 「これいくら?」と良さそうな熊手の値段を尋ねていく。「1万2千円でぃ!」とお目当てを探すことができたら、ここで値切る交渉に入るのです。半額はやりすぎ。1万円以下になれば万々歳。なので8千円から交渉しましょうか? 「そんなまけられないよ、1万円でどう?」と嘆くことでしょうから「もう一声!9千円で!」と言えば、交渉成立するかもしれない。

 成立した後の支払いですが、9千円支払って「安くなったぁ」と得した気ではいけないのです。ここがポイント。値引きしてくれた気持ちを御祝儀として、当初の1万2千円を支払うのが江戸っ子の流儀なんです。

 お手を拝借!ヨ~ッ!と店の人たちと柏手(かしわで)打って1年間を祈願してくれます。

 値切った意味がない? いや、これが江戸っ子の粋な文化でして。縁起を呼ぶ日に、みんながハッピーとなる遊びなのでしょう。

 私はこの文化が大好きです。東京にシャッター商店街がないのは人口が多いから、だけではないのです。酉の市の粋みたいなことで支え合い、喜びを分け合っているから、町は元気がいい。

 沖縄にも、ゆいまーるという文化がありますね。安いものを求めすぎてしまうと、分け合うものさえなくなってしまいますからなぁ…。
(江川ゲンタ・打楽器奏者、宮古島大使)