<南風>春、新しいドラマが始まる


社会
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 出会いの春がやってきた。哲学者の森信三の言葉が浮かぶ。「人間は一生のうち逢(あ)うべき人には必ず逢える。しかも一瞬早すぎず、一瞬遅すぎない時に」

 一日に出会う人の数は人それぞれ。置かれた環境や職種、場所によっても違う。私の仕事では一日500人くらいのお客さまとの出会いがある。一期一会の出会いを通してさまざまな気づき、学びをいただく。

 機内でご一緒するひとときに、どれだけお客さまに寄り添い、最高のサービスを提供できるか。お客さまのニーズに上手(うま)くお応えできたときの喜びは何とも言えない。

 ある日、羽田から石垣島へ向かう機内で、仲睦まじい年配のご夫婦に後輩がお声かけした。ご主人は脳梗塞、奥様は乳がんを患っており、夫婦そろっての旅は最後のつもりとおっしゃっていた。後輩たちは、お客さまに何とかして素敵な思い出を残して差し上げたいと思った。お客さまの体調を気にかけながら、お客さまとの会話を大事にした。

 後日、会社にお手紙が届いた。「機内で客室乗務員の皆さんに親切にしてもらい、最後の旅だと思ったが、欲が出てきた。また飛行機に乗って旅がしたい。前向きに治療しようという気持ちに変わった。心に残る旅をありがとうございました」と綴(つづ)られていた。

 過ぎ行く時の中で人は出会う。目の前を通り過ぎる人も何かのご縁があるかもしれない。思い返せば、あの時、あの出会いがあったから今の自分がいることに気づく。さまざまな出会いが新しい自分をつくっていく。あなたに出会えて良かったと思われるような人になりたい。そう思えるのは、素晴らしい人生の師匠に出会ったから。

 どんな人と出会うかで運命が変わる。この春、どんな出会いをいただけるかワクワクする。新しいドラマのはじまり。

(亀川智子、JTA客室乗務員 JALJTAセールス法人G長)