<南風>異なるものとの出会い


社会
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 緑の木々から降り注ぐ陽光、はじける笑顔の新入生たち。キャンパス全体が華やぎ、活気に溢(あふ)れている。千原池に架かる球陽橋に立って一つ深呼吸をすると、早くもうりずんの香り。ちまたでは清明祭の真っ最中。

 時間割が決まっていた高校までとは違い、自分で科目を決めて履修登録することが、新入生にとって最初の関門。落ち着いて先生や先輩、事務に相談することが大事だ。先生方は専門分野の研究を背景にして授業を進めていく。ぜひ、興味のある授業や事柄を一つ見つけて、先生の研究室を訪ねてほしい。高尚な質問よりも素朴で身近な疑問でいい。研究の世界や異なる考え方に触れ、その面白さや未来への可能性を感じてほしい。そして、先輩や卒業生たちの留学経験や学内外での活動にも触れてほしい。

 都会への憧れを綴(つづ)った歌が流行(はや)り、携帯電話はなく、駅の伝言板が連絡手段だった40年前、私は上京した。私にとって大学は、就きたい職業への通過点、東京で就職するための手段だった。1年生は教養科目ばかりで、専門分野の科目を履修させてもらえず、がっかりした。それでも、国際法と人権の授業や中原中也の詩を題材にした近代文学の授業は、さすが大学教授と唸(うな)るほどの見識と迫力があった。2年生前期末に選抜試験があり、男子学生は目当ての研究室に入るために必死に勉強していた。研究室の教授の推薦状1本で、1部上場企業への就職が約束される。そんな時代だった。

 時代は変わり、大学も通過点ではなく、今や人生百年の伴走者、学び直しの拠点に。「若い心に火を付けること。そのためには異なるものとの出会いが一番。それを実現できるかが大学教育成功の鍵」と聞いた。まさに大学の醍醐味(だいごみ)がそこにある。世界の多様性や異なるものに触れる格好の場が大学だと思う。
(新田早苗、琉球大学総合企画戦略部長)