<南風>なぜ走るのか


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 「なぜ走るのか?」「走っている時に何を考えているのか?」と友人に尋ねたことがあった。「愚問だな」とあっさり言われた。その友人は50歳になってからランニングを始め、マラソン大会に参戦するようになり、数年後にはトライアスロン大会でも完走するようになった鉄人。「その答えが知りたければ、自分でやってみたらいい」と言われ、私が走り始めたのは5年前。今では走ることにハマっている。

 学生時代の私は、走ること、とくに長距離走が苦手だった。息が苦しくなるし、横っ腹が痛くなる。集団で走ると置いてけぼり。運動部に所属してはいたが、基礎練習の走り込みの時間をどうやってしのごうかとよく考えていた。なぜ、こんな苦しい思いをしなければならないのかと思っていた。

 そんな私が走ることにハマった理由は、「自分のペースで前に進める」ことを実感できるから。ゆっくり進みたい時にはゆっくりと、速く進みたい時には大汗をかくほどのスピードで。周回コースよりも、景色が移り変わる公園や海岸沿いを走る方が好き。自分が気持ちいいと思う安全な場所で好きなように。自分の思うように自分のペースで居られる。誰にも気兼ねすることなく自分本位に生きられる。

 運動と心身への影響については科学的知見がさまざまあるが、素人の私がもっとも強く感じるのは、ランニングをすると思考が整理されるということ。適度な運動が習慣となった今では、走ると身体だけではなく頭がスッキリする。やらなければならないけど何から始めたらいいのか分からない時に走ると、物事の優先順位が見えてくる。ごちゃごちゃした会議の後のランニングの効果は絶大だ。何だか心がモヤモヤしたら、自分のペースで走ることにしている。

 「なぜ走るのか?」。その問いに対する私の答えは見つかった。
(吉川麻衣子、沖縄大学准教授 臨床心理士)