<南風>ポーク缶


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「夜間中学校への県の補助打ち切り」というニュースが新聞などで報じられた翌々日、一人の女性が珊瑚舎を訪ねてこられました。

 「新聞を読んで胸が痛み、なにかできないかと悩んで思い切って来ました。夜間中学の生徒さんと同じ世代です。幸いにも自分は学校を出て、これまで働くことができた。これも学校を卒業したおかげと思う。思い返せば小学校の頃、級友が一人、二人と学校を去っていった。その頃はなにも思わなかったが、後で考えると、あの人たちは学校に通うことができない境遇だったのが分かる。そう思うと、今やっと勉強できる時間を手に入れた夜間中学の生徒さんたちのことが案じられてならない」とおっしゃる。

 話し終わると、手のひらサイズのポーク缶を差し出されました。一瞬、意味が分かりませんでした。「なにかのためにとコツコツ貯(た)めてきました。少額ですが役立ててください」と言われました。手に取ると、ずっしり重い。ポーク缶を利用した貯金箱だったのです。五百円玉が入る大きさに穴が開いています。長い間大切にしまわれていたのでしょう。缶の塗料が?げかかっています。時の流れとその重さに思わず手を合わせてしまいました。

 その日の夜間中学の始まりの会で、生徒のみなさんに報告しました。口々に、「偉いなー、なかなかできることじゃないよ」「そう思ってくれる人がいるんだねー、頑張って勉強しなくちゃねー」などと声が上がり、拍手が起きました。

 ポーク缶をよく見ると中身を取り出すために開けた形跡がありません。あのくるくる巻き取る鍵もついたままです。五百円玉を入れるための穴からどうやって中身を取り出したのでしょう。謎です。

 有り難く頂きましたが、このピンクのポーク缶、宝物として、そのまま開けずに置いておきたいです。

(遠藤知子、珊瑚舎スコーレ スタッフ)