<南風>アクシデント


社会
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 腹話術人形は大きく二つに分類できる。口だけが動くものと、口と目が動く仕掛けもの。仕掛けものは、細い紐(ひも)を指で引っ張って動かしている。腹話術は人形操作にかなり神経を使う。そんな大切な仕掛けが本番中に壊れてしまった事がある。

 うちのメンバーで口だけが動くメンバーは、鳥のサトル君、師匠、そしてガイコツ君。仕掛けものメンバーはジョージ君、カルロス君、カンちゃんなど。

 今回の主役はカンちゃん。これは腹話術の芝居上の設定がある。教育番組「いちにの算数」の子役という設定のカンちゃんは、声が高くて可愛(かわい)らしい。私演じるハリキリ兄さんと共に子どもたちに大人気で、画面上では愛くるしいカンちゃん。しかし楽屋に戻ったら毒舌でお兄さんに説教を始める。テレビとは違うドスのきいた低い声で。芸能生活21年のベテラン子役のカンちゃんに、お兄さんは頭が上がらない。お兄さんは新人なのだ。そんな裏表のあるカンちゃん。芸名は「伊井かんじ」だが本名は「八名かんじ」。その名の通り本当にやな感じなのだ。

 …10年以上前、公演中にカンちゃんの仕掛け紐が切れるアクシデントに見舞われた。カンちゃんがお兄さんに説教をしている大事な場面で紐が切れ、カンちゃんの口が動かなくなってしまった。咄嗟(とっさ)にアドリブで「オレも腹話術うまいだろう?口が全然動かないんだよ」と、喋(しゃべ)らせたのだが、ずっと続けるには無理がある。

 瞬時に考えて出した結論は、人形の仕掛けを見せることだった。夢を壊すので子どもには見せたくないが、幸いお子さんはいなかった。…頭をパカッと開き「この紐が目を動かす仕掛けで…」解説をしながら「これが口を動かす糸。ほどけてますよね?」。これを結んで…「ほら、直りました!」。お客さんは大喜びだったが、あんな思いは二度としたくない。
(いっこく堂、腹話術師)