<南風>ロマンを見逃すな


社会
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 東京は渋谷の、かなりボロボロな雑居ビルに、これまた古い看板で「円周率研究所」なる場所がある。

 小学生の頃、円周率は約3・14と教わった。その先の終わりなき円周率の小さな桁を計算している場所だ。

 確かアルキメデスが2千年以上前に円周率を見つけ出し、それから代々いろんな人がずっと限りなく丸いものを求めて、今もなお計算しているのだ。

 何のために?

 答えがないものを追い続ける、すなわちロマンなのだ。

 私は渋谷でその看板を見上げた時の感動を忘れられない。自分の目の前にあるいろんな丸いものは、そんなロマンが作り出したのかもしれないと気がついたのだ。

 それは円周率の話だけではないのだろう。現在あるたくさんのこと、たくさんのものが、ロマンによって生まれてきたはずなのだ。

 我々はそろそろ、先人たちがロマンを持って形にしたそのものから、いろんな想(おも)いを再確認する必要があるのではなかろうか?

 どんな想いで作られたか、を想像することで暮らしが豊かになるように思う。単なる消費者となって、なに不自由なく暮らしているだけだと見逃してしまう。

 それではもったいない。

 目の前にある、あれも、これもがロマンから生まれてきたと思うだけで、ワクワクしないだろうか?

 気軽に使っているものの中にも必ず、いろんな人の夢や情熱が詰まっているのである。今、自分を囲む多くのものが、先人たちから受け継がれた技術や、未来への想いを燃やして生み出された情熱から作られている!と思うだけで、単なる消費者ではなく、すべてのものに嗜好(しこう)者としての愛着を持つことができる。

 豊かさって、自分が見つけないと、いつまでも見つからないまま、なのですよね。
(江川ゲンタ、宮古島大使 打楽器奏者)