<南風>父からのプレゼント


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 私は本が好きです。特に絵本は大好きです。世界各国のお話も絵本なら絵をたどっていくだけでストーリーがわかります。

 外国からはるばる日本までやってきた絵本は、その紙質、印刷の色、匂いまで違います。どこかの国の印刷所でどこかの国の人達が一生懸命作った本、と思うだけで愛(いと)しく思ってしまいます。

 私が本好きになったのは父親のおかげです。沖縄が壊滅的に破壊された太平洋戦争が終結し、その8年後、私達一家は東京に移住し、10年暮らしました。復帰前のことですからパスポート持参の、日本という外国への移住というわけです。

 私は小さい頃は引っ込み思案で外出も嫌がって留守番しているような子供でした。そこで家族が外出すると父が私へのお土産に本を買ってきてくれたのです。

 ちょうどその頃、石井桃子さんや斎藤茂男さんなど日本の児童文学界を牽引(けんいん)していた方々が、日本の子供たちに最高の文学を届けようと次々に世界の絵本を翻訳出版し始めた時期でした。「岩波こどものほん」がシリーズ化され、「きかんしゃやえもん」「ちいさいおうち」「ひとまねこざる」「百枚のきもの」などの名作が出版され、私は父が選んでくれた本のお土産から本の世界の扉を開いていったのです。

 実を言うと、父親とは父と娘として語り合ったということが一度もありません。父は子供たちと向き合って語り合う術を持ち合わせていなかったようで、食事をする時もいつも無言でした。ですから、父親の愛情というものをあまり感じられず、私の方からも父への感謝を表すということを全くしないままに他界してしまいました。

 父が亡くなって30年経(た)った今頃になって、父からの本のプレゼントが私の人生を豊かにしてくれたことに思い至るのです。
(屋嘉道子、ブックカフェ&ホール「ゆかるひ」店主)