<南風>うとぅいむち(おもてなし)


社会
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 数年前、AI(人工知能)ロボットが接客の現場に導入されたというニュースは大きな話題になった。ハウステンボスにオープンした「変なホテル」では、フロントにいるロボットが接客するというから驚愕(きょうがく)。かくいう私も、家ではグーグルホームを使っている。帰宅して「ただいま~」というと、グーグルが「おかえりなさい。お役にたてることがあったら何でも言ってくださいね」と応える。感動はないが何だか面白い。

 つい最近の機内でのエピソード。年配のご両親を伴っての家族6人沖縄旅行。「母が認知症のため、家族揃(ぞろ)っての旅行はこれで最後かもしれない」と娘さん。お母さまは美ら海水族館のジンベエザメのTシャツをお召しだった。入社1年目の後輩はジンベエジェットのポストカードに、ちょっとしたメッセージを書き、「このTシャツと同じジンベエですよ」と言ってお渡しした。すると、それまで無表情だったお客さまが、目を合わせて「ありがとう」とおっしゃった。日頃は笑顔を見せないのかもしれない。それを見ていた娘さんが非常に感動され、「この旅行のことも、どこまで覚えているか分からないが、最後に一番の思い出ができた。こんな母の姿を見たことはない」と涙を流して喜ばれた。

 話を聞いて、私も目頭が熱くなった。日進月歩で環境はどんどん変化していくが、人の心を動かし、涙するのは感情を持った人間だ。琉球王国時代、琉球人たちは質の高い「うとぅいむち」で冊封使を歓待した。約200年前に来琉したバジルホールは、琉球人の見返りを期待しない誠意と礼節をつくした気遣いを絶賛した。

 沖縄を訪れる方々は何に感動するのだろう。接客の現場でロボットが導入される今こそ、人の心に響く感動の接客「うとぅいむち」を発揮したい。先祖のDNAを引き継ぐ沖縄にはその素地が十分あると思う。

(亀川智子、JTA客室乗務員 JALJTAセールス法人G長)