<南風>「過去」との断絶


社会
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 私は沖縄へ移住して間もなく8年になりますが、この地には私の過去がありません。私に接する人々は異邦人に対するように過去を問いません。そのような真空状態のなかで冷静に過去を検証しました。その結果、私が主宰したLGBT運動の挫折は外部からの力学によるというよりも、私自身の内部にあった脆弱(ぜいじゃく)性が様々な外的刺激に反応しながら醸成され、次第に増幅して、やがて現実から三つの痛手を被った現象だったのだ、と気づきました。こういうことを言い出すと「自虐的ではないか」という意見もあろうかと思われます。しかし、私にとっての過去は私が征服しきれなかった世界であり、それは幻想であったのです。

 1987年8月、第1回IGA日本年次総会における大量脱退騒動。

 1992年7月、第6回IGA日本年次総会における「団体名の変更」動議とクーデター未遂事件。

 1996年8月、第3回レズビアン・ゲイ・パレードin東京の集会における暴力行為による会場混乱事件(詳細は2月23日の本欄をご参照ください)。

 これら三大破壊事件は、いかにも他者が策動して起こした権力闘争のように見えますが、必ずしもそうではありません。下剋上の要素があったことは事実ですが、いわば「お山の大将争奪ゲーム」にも似たコップの中の嵐でした。

 内実は私が当初から主導し、運動の目標として掲げた理念が時代の若者たちの感覚と乖離(かいり)していたということ、また潜在する性的少数者の欲望を掬(すく)いきれなかったこと、さらにインターネット社会の到来にもかかわらず、その技術をないがしろにして情報戦に負けたことなどが決定的な原因であったのでした。

 過去を引きずっていたのでは未来は訪れません。心機一転、新しい方向を模索したいと思います。
(南定四郎、LGBTQフォーラム 2018実行委員長)