<南風>変わるきっかけ


社会
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 梅雨なのに強烈な日差しが続いていて、戸外への一歩に躊躇(ちゅうちょ)する。それに引き替え、色とりどりのTシャツや短パン姿の学生たちは眩(まぶ)しいほどに元気で、楽しい夏が待ち遠しい感じ。

 この時期、大学はとても忙しい。昨年度の決算や業務実績、次年度の概算要求や資金獲得のための申請書など、山のような書類作成に追われる。先生方も授業はもちろん、研究実績報告や研究計画づくりに余念がない。過去を振り返りつつ、新しい取り組みに向かって大学全体が動いている。多忙な中にも緊張感や躍動感があって、大学で働いていることを実感する。

 一口に大学職員といっても、総務系、会計系、学生・学務系、病院系、図書館系、企画評価系、学部事務、教室系技官など様々な業務や職種がある。10年の教室系技官の後、事務職に異動した。学部事務は学生さんに近くて楽しそう、本が好きだから図書館業務がいいな。その頃の私は、大学職員という矜恃(きょうじ)やきちんとした職業観も持たず、のほほんと過ごしていた。

 中央省庁再編や公務員削減で国立大学法人化の話が出始めた20年ほど前、学長秘書の頃から、学術と大学教育の大切さ、大学の社会的価値を考えるようになった。契機は、息子の一言。「母さん、琉大潰(つぶ)れるの? 母さんがいる時に?」。子どもは親の会話を聞いている。私は言葉に詰まり、答えられなかった。

 「母子家庭が多くて子どもの数も多いのに、県民所得は最低水準の沖縄。琉大が潰れたら、限られた若者しか大学に進学できない。戦前の沖縄に逆戻りだ。だから絶対になくしてはいけない」と、当時の学長たちが話してくれた。戦前に生まれ、戦中・戦後、琉大設置運動も経験した世代の言葉は重く、その強い意志は今も受け継がれている。彼らへの共感と息子たちの瞳が私を変えてきたのだと思う。
(新田早苗、琉球大学総合企画戦略部長)