<南風>「貧困」の漂流


社会
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 「女性用の服装ですが心は男です。女性に性的魅力を覚えます」と切り出した相談者をMさんとします。

 居酒屋でお酒をたしなんでいたMさんに見知らぬ男が話しかけてきたので「私は男が嫌いなの」と拒みました。相手は益々(ますます)接近して話しかけてきます。嫌悪感をむき出しに席を立ち街頭へ飛び出しました。男は執拗(しつよう)に追ってきます。Mさんは柔道の技を用いて男を草むらへ放り投げました。このようなことに一度ならずぶつかりました。

 その頃、Mさんは東京の美術大学を志望して予備校に通学していましたが、諦めて仕事に就きました。しかし、転職を繰り返した果てに精魂尽きて沖縄にUターンしました。「二度と俺の前に顔を出すな」と父親に罵倒されて追い払われました。

 行政の窓口に相談に行くと医師の診断書を添付した「障害者年金申請書」の提出を求められ、精神科クリニックを受診しました。医師は「薬を処方します」と言うので、「薬は飲みません」と答えたために診断書は発行されませんでした。

 次に生活保護の窓口を訪れました。「お住まいは?」と聞かれたので「姉の住居に転がり込みました」「お姉さんに面倒を見てもらいなさい」と断られました。

 Mさんは外見上の性別と心が一致せず、鬱勃(うつぼつ)とする気分を抑えようとして居酒屋に逃げこむうちに酒に溺れて生活困窮者となってしまいました。孤独になんとか耐えて、私たちの自助グループを発見して毎月1回の例会に出席しています。このような貧困は「自己責任」だとしてセーフティネットの社会資源を活用できないのが現実です。そこで、「ランチカフェ」を立ち上げてMさんのような人が働く場を確保しようというアイデアが提案されています。具体的な討論がはじまる段階です。読者の皆さん、熱いご支援をお願いします。

(南定四郎、LGBTQフォーラム2018実行委員長)