<南風>ニッポンコネクションと「躓きの石」


社会
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 紅型で下り立った5月のフランクフルト空港。3度目のドイツ。旅の目的は「ニッポンコネクション」の文化部門で切り紙を紹介すること。

 ニッポンコネクションは大学で映画学を専攻し、日本文化にも関心を持つ二人の学生が始めた世界最大の日本映画祭で今年18回目。市内5カ所の映画館を含めた会場で毎年百本以上の映画が上映され、日本文化が紹介される。市民にとってもヨーロッパ各国の人々にとっても日本を知るよい機会になっているという。

 切り紙をきっかけにさまざまな出会いがあった。「ハイサイ」と紅型姿の私にあいさつしたドイツ人男性は「島くとぅばを習いたい」、「はじめてウチナーンチュに会った」と言って、私の片言の島くとぅばを喜んでくれた。

 映画祭はボランティアスタッフで成り立っている。映画に対する情熱と献身的な仕事ぶりに支えられた。

 宿から会場まで徒歩40分。毎日違う道を歩いた。それはスタッフに教えてもらった「躓(つまず)きの石(シュトルパーシュタイン)」と出会う時間でもあった。「躓きの石」はナチスによる大量虐殺の歴史を伝える石だ。犠牲者の名前や生年月日、強制収容所名と虐殺された日などが金色のプレートに刻まれ、犠牲者が暮らしていた家、住所の前の歩道に敷石として埋め込まれている。

 この日常空間に戦争の記憶を留める活動はケルン在住の彫刻家、グンター・デムニッヒ氏が1992年に始めたもので、ドイツ国内外に拡大中だ。

 バラの香りのする石畳を歩きながら、毎年追加刻銘される「平和の礎」のことを思った。名前はその人が生きた証(あかし)。世界には戦争を記憶するいろいろな仕方がある。

 旅先や日常で感じたことをつづっていきたい。半年間お付き合いください。

(新川美千代、切り紙作家)