<南風>音楽の魅力


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 最近話題の“ハイレゾ”は音楽会場さながらの臨場感が売りのようですが、やはり生の演奏会に優るものなし。先日のN響沖縄公演でもそのことを痛感しました。平和への願いを込めた選曲と熱演が客席との一体感を醸し出していました。

 クラシック音楽との出会いは中学時代、半ば強引に勧誘されて吹奏楽部に入ったのがきっかけです。担当は金管楽器のユーフォニアム。「マウスピースが大きくトランペットより吹きやすそうだし、ピストン操作だからトロンボーンほど難しくなさそう」という安直な考えでしたから、才能がないことは明らか。あっさり諦めて高校からは陸上部に移り、クラシックはもっぱら聴くだけとなりました。

 今も記憶に残る演奏会と言えば、東日本大震災の年、サントリーホールでのウィーン・フィル。生で聴くのは3度目でしたが、音色がどこか変わったように感じ、最も引き込まれた演奏でした。ホールの関係者に尋ねてみると「実は原発事故の影響を恐れて来日を断る団員が続出し、やむなくOBに声をかけた」のだとか。未曾有の震災が名門オケの往年の響きを復活させたという何とも皮肉な話でした。

 その一方で、震災後には海外の音楽家からも多くの支援が寄せられました。地震発生の時はロシアで勤務していたのですが、世界的指揮者のワレリー・ゲルギエフ氏が追悼コンサートの開催を決めたと聞き、取材に出かけました。「7年前に故郷の北オセチアで学校占拠事件が起き、大勢の子供が犠牲になった時、日本の人達の支援にどれだけ勇気づけられたことか。今度は音楽でお返しをさせてもらう番です」。私の手を握りしめながら語ってくれた姿は今も忘れられません。国境や言葉の違いを超えて生み出される数々のドラマ。音楽が人を惹(ひ)きつけてやまない魅力はここにあるのかもしれません。
(傍田賢治、NHK沖縄放送局局長)