<南風>「睡眠負債」ためるな


社会
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 近年話題になっている「睡眠負債(sleep debt)」とはスタンフォード大学のDement教授が提唱した概念だ。「寝だめ」という言葉があるが、実際、睡眠は貯(た)めることはできない。睡眠不足が続くと負債として蓄積され、日中の眠気や倦怠(けんたい)感などが生じて集中力や思考力などの機能が低下する。寝不足が慢性化し「睡眠負債」が大きくなると、長く寝たとしても数日では改善せず、負債がゼロになるまで数週間以上かかることがある。

 成人を対象とした2002年の10カ国共同調査では日本人の平均睡眠時間が6時間53分と最も短く、最長はポルトガルの8時間24分だった。1960年以降、5年ごとに実施されるNHKの国民生活時間調査でも日本人の平均睡眠時間は減少傾向となっている。日本では睡眠不足による経済的損失が大きいといわれている。先進国で日本の労働生産性が低いのもこのような一因があるのではないか。

 米国のNational Sleep Foundationが公開した望ましい睡眠時間の目安は5~12歳の学童で10~11時間、中高生は8~9時間、成人は7~9時間とされる。あくまでも目安の一つだが、一般に代謝の活発な若い人や活動量の多い人ほど必要な睡眠時間は長くなる。

 一方、高齢者になると長く眠りたくても5~6時間しか眠れない方も多くいる。それは加齢による生理的な変化で7時間以上眠れなくても日中機能に問題がなければそれほど心配する必要はない。ただし数時間しか眠れないような不眠症状が続いて疲れがとれないときは睡眠専門医療機関の受診を勧める。

 必要な睡眠時間は年齢差や個人差も大きく絶対的な基準はないが、各人が日中の眠気や起床困難の程度を目安に「睡眠負債」をため込まないようにしていく必要がある。
(普天間国博、嬉野が丘サマリヤ人病院 医師・医学博士)