<南風>ジャガイモの世界旅行


社会
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 もしも世界の終わりが来るとしら、最後に何を食べていると思いますか。

 わたしが好きな映画に、タル・ベーラ監督の『ニーチェの馬』という作品がある。ヨーロッパのどこかで、世界の終わりが近づいているらしい。そして、一組の父娘が、茹でたジャガイモに塩をかけて食べるというシーンがくり返えされる。この世の終わりに食べることができるのは、ジャガイモだとヨーロッパでは考えられているのかもしれない、と思った。

 ジャガイモは南米のアンデス山脈が原産だ。それをスペイン人たちが、15世紀ころ、ヨーロッパに持ち込んだとされている。ヨーロッパでは、その後あった飢饉のため、環境に適応し、年に複数回栽培できるジャガイモが重宝されるようになったらしい。

 日本には16世紀の終わりころ、インドネシアのジャカルタから、オランダ人によってもたらされた。ジャカルタから来たイモということで、ジャガタライモ、そしてジャガイモと呼ばれるようになったという。食物の旅を考えてみるのもおもしろい。

 このほかにも南北アメリカ大陸からは、トウモロコシ、トマト、トウガラシなどが世界に広まった。トウガラシが来る前のキムチは、日本の漬物と変わりがなかったらしいし、トマトが到達する前のピザはどんなものだったのだろう。

 日本の主食である米は、中国中南部から日本に伝わった。それが、いまや日本食の原点となっている。わたしが最後に食べたいのは、やっぱりご飯かもしれない。

 さまざまな食物が外から越境してやってきて、その土地の食文化が形成された。混ざり合ってできた。

 日本の伝統とか、日本人として、とか、そういう話が出てくるとき、わたしはこういう越境のことを考えるようにしている。
(神里雄大、作家・舞台演出家)