<南風>昆布が結ぶ「縁」


社会
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 珍しい名字のせいか「お国はどちらですか」とよく聞かれるのですが、生まれ育ったのは富山県西部の農村地帯です。小学校は2年生の時に周辺校と統合されるまで、学年わずか14人の小規模校でした。沖縄の離島に行った時、どこか親近感を覚えるのはこのためかもしれません。

 こちらに来て、その富山と沖縄を強く結びつけているものがあることを知りました。クーブイリチーはじめ沖縄料理に欠かせない昆布がそれです。歴史学者の上里隆史さんの著書によると、江戸時代、昆布産地でない琉球に昆布をもたらしたのは富山の薬売り。北前船で富山に運ばれた北海道(蝦夷(えぞ)地)産の昆布を、薩摩を通じて流入させました。狙いは琉球が中国から輸入していた漢方薬の原料。これを手に入れるための代価が昆布だったのだそうです。当時の海上流通の発達が生んだ何とも興味深いつながりです。

 正直に告白すると、昆布はそれほど好物ではありませんでした。富山も昆布料理が盛んで、子供の頃は毎晩のように身欠きニシンの昆布巻きが食卓に並んだため、「またか」と思うこともしばしばでした。沖縄の食文化に触れ、昆布の奥深さに気付かされたような気がします。

 ただ最近、居酒屋でクーブイリチーを注文しようとして、もう置いていないと言われたことが何度もありました。理由は「水で戻すなど調理に手間がかかるから」とのこと。先月、那覇市を訪れた北海道の漁協関係者によると、かつて全国一の昆布消費県だった沖縄でも2000年以降は急激に消費が減っているそうです。何だか沖縄と富山の関係が薄れていくようで寂しく感じています。長寿県沖縄を支えてきた食材とも言われる昆布。旧盆やシーミーの時期にだけ見かける存在にならないよう願ってやみません。
(傍田賢治、NHK沖縄放送局局長)