<南風>心に寄り添う


社会
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 私には兄がいます。私が生まれる前に天国に行ってしまったので会ったことはありませんが、いつもそばにいてくれているような気がします。

 兄の存在を知ったのは小学校5年生の時。お墓掃除をしていたら、沖縄特有の大きなお墓の敷地内に小さなお墓があり私は「誰のだろう」と思いながらウートートをしていました。ふと気になり母に尋ねると「あなたのお兄ちゃんのお墓だよ」と教えてくれました。

 後に聞いたのですが、両親は私に兄のことを伝えるのを、躊躇(ちゅうちょ)していたそうです。兄が亡くなったことを私が悲しんで泣いてしまったらどうしよう。そんなふうに気遣ってくれていたのですが、私の反応は真逆でした。

 「きょうだいがいるの。ひとりっ子じゃないんだ。うれしい」。悲しみよりも兄がいるうれしさの方が大きかったのです。思い返せば毎年6月14日に誰のかわからない誕生日をしていたことも謎が解け、その日から私には1人家族が増えました。学校からの帰り道も寂しくなくなり、ギターを弾いて歌っている時も隣で聴いてくれてるような気がしました。

 今でも朝目覚めたら6時14分だったり、新幹線の座席が6号車14列目だったり、なんらかのエールを私に送ってくれる兄。新しいアルバム『LOOP』の仕上げ作業のマスタリングが終わった日も偶然6月14日で、最後にチェックしたのは兄のことを歌った『北斗七星』でした。今やっている音楽や挑戦が間違いではないと言われているようでうれしかったです。

 会えなくても心の中にいるというのは本当だなと思います。東京でホームシックになったときも兄を思うと寂しさがやわらぎます。そんなふうに私の歌が誰かの心に寄り添っていけたらいいなと思うようになりました。それが今私が歌っている理由だと思います。
(Anly、シンガーソングライター)