<南風>「睡眠薬はぼけるのか」


社会
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 従来の睡眠薬は依存性だけでなく高齢者の転倒・骨折やせん妄(一過性の錯乱状態)も問題となってきた。他の副作用で懸念されているのが認知症リスクだ。ベンゾジアゼピン系睡眠薬の長期使用でその後の認知症の発症率が高まったという論文がいくつかある。一方でそれを否定する報告も多く、一致したコンセンサスは得られていない。要するに睡眠薬で本当にボケるかどうかは実際のところまだよくわかっていないのだ。

 しかし不眠症を長期間放置するとアルツハイマー型認知症の発症リスクが高まることは明らかになってきた。不眠症が続くとβアミロイドの沈着や海馬容積の縮小が進行するという研究報告がそれを裏付ける。日中の活動で脳細胞に溜まった老廃物は睡眠中に効率よく分解されて取り除かれる。睡眠は心身の休息やメンテナンスに重要な役割を果たしている。睡眠障害は認知症のみならず、うつ病や心血管系病変の発症リスクが高まることもわかってきた。

 睡眠薬は適正使用が重要で頼りすぎも怖がりすぎも良くない。例えば睡眠時間にこだわりすぎて長時間眠るために副作用の強い薬を何剤も併用することは好ましくない。逆に睡眠薬を怖がりすぎて不眠症を放置するのも良くない。

 不眠症の治療目標は単純な睡眠時間の延長ではなく日中機能を改善させることだ。必要な睡眠時間は人それぞれで年齢によっても異なる。若者は十分な睡眠時間が必要だが、高齢者は5~6時間しか眠れなくても日中に自分の好きなことを元気に楽しむことができればそれほど心配する必要はない。しかし不眠症で数時間しか眠れない日が続き、疲れが取れないときは治療すべきである。近年は依存性のない新しいタイプの睡眠薬も登場しているので専門家による適正処方であれば安全性を高めることができる。
(普天間国博、嬉野が丘サマリヤ人病院 睡眠専門医・医学博士)