<南風>ブラジル版「テーゲー精神」


社会
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 なかなかデジタル派にはなりきれず、フェイスブックもツイッターももっぱら読むだけなのですが、今回だけは違いました。ある週末、SNSのリンクトインに「ソバタ」を名乗るブラジル人男性からつながりリクエストが届きました。早速返信すると、同姓(というか英語の綴(つづ)りが同じ)の人が日本にいると知って興味を持ったらしく、「ブラジルにソバタ姓はうちの一家だけ。祖父が日本から来たこと以外知りませんが、私たちは遠い親戚なのでしょうか」とのこと。残念ながらブラジルに渡った親類は恐らくいないことや故郷の話などをやり取りしました。

 沖縄にいる時にこうした連絡をもらったのも、何だか不思議な巡り合わせです。今年は沖縄のブラジル移民110周年。8月に現地で記念式典があったばかりです。ブラジル日系人社会で沖縄系は約1割でありながら、琉球文化の継承などその規模を遙(はる)かに上回る存在感を発揮していると聞きます。

 ブラジルには5~6回出張しましたが、いつ行っても感じるのはやはり大らかな国民性。取材のアポが直前に変更になるのは日常茶飯事です。サッカーW杯もリオ五輪も海外の心配をよそにマイペースで成功させました。「ブラジルで午後3時と言えば3時から3時59分までを指す」という言葉があるのもうなずけます。

 いつだったか名物のチーズパン、ポンデケージョを買いに行った時のこと。同行のブラジル人スタッフが「日本人なのでサービスしてあげて」と初対面の店員に声をかけると、笑顔でおまけしてくれました。ブラジル版のテーゲー精神は、今の時代が失ってしまったものを改めて気付かせてくれます。遠く離れた南米の国と沖縄を今も結びつけているのは、効率や損得は二の次の豊かな生き方なのかもしれません。
(傍田賢治、NHK沖縄放送局局長)