<南風>ビーナス(金星)


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「宵の明星」または「明けの明星」と呼ばれる金星は数ある星の中で最も明るく輝きを放つ星です。きっと子供のころ、オレンジ色の空に一番星を見上げながら家へ帰った人もいるでしょう。

 私は東京に住み始めてから、締め切りに追われながら楽曲制作することも多々あり、家に帰るのが夜明けになることや、良いアイデアが浮かばず焦るあまり眠る勇気なく一晩中起きてしまったこともありました。そんな時に夜明けの空に輝く金星を見つけたことがあります。ココロも体も疲れきっていた私は金星に優しく励まされました。

 こんなに広い空にたったひとつで一生懸命光って、太陽が出てきたらまたいなくなるなんてとても切なくて力強い。誰も自分のことなんて見てくれてないと思っていたけれど、私が金星を見つけたように、金星も私を見つけてくれた。人と人もそんなふうに支え合っているのかもしれない。私が作った曲たちは、私が想像している以上に多くの人々へ届いていて、目に見える数字だけでは測れないほどの心に触れているはず。その特別さを忘れかけたときに自分は孤独だと思ってしまうんだと思いました。

 社会にはあらゆる職業があって、ときにはうまくいかなかったり、直接感謝を伝え合うことができなかったり、結果を求めすぎるあまり、焦って本来の仕事の目的を見失うことがあるかもしれない。でもこの世界に生きている限り、ひとりぼっちになることはなく必ず誰かと関わって生きています。

 家族、恋人、職場の人、コンビニの店員、窓拭き業者の人、アパートの大家さん、駅員、タクシー運転手。それぞれが誰かの人生を照らしたり照らされたりする星のような存在なのです。必ず誰かがあなたを見守っているし、今日はあなたが誰かのVenus(金星)になる日かもしれません。

(Anly、シンガーソングライター)