<南風>知恵絞り、分裂回避願う


社会
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 高校時代、社会科はあまり得意でなかったのでいい思い出は少ないのですが、例外的によく覚えている授業があります。米国の建国当初、各州の人口に基づいて議員の配分を決めるにあたって、人口に奴隷を含めるかどうかで南北が対立。大論争の末、奴隷を1でもゼロでもなく「5分の3」人とする異例の案でようやく決着しました。ぶつかる利害を調整し、決定的な分裂を避けるために知恵を絞りに絞る。こうした「偉大な妥協」で国の結束を保ってきたのがアメリカだと教わりました。

 ところが今のアメリカはまったく別の国のようです。前任地ニューヨークでの勤務はトランプ旋風に振り回される毎日でしたが、敵をつくって憎悪をあおる手法は相変わらず。中間選挙で議席は減らしたものの、岩盤支持層はむしろ活気づき、与野党の対立と社会の分断は深まるばかりです。

 「トランプ氏をめぐる意見の違いから家族や友人と口をきかなくなったことがある」。こう答えた人が3人に1人に上ったという調査まであります。どちらの党を支持するかはもはや単なる投票行動ではなく、人格そのものと見なされかねない状況です。

 リベラルな風土の州に住む友人から「今のアメリカにはもう住みたくない。ケンジの東京の家が空いているなら貸してくれないか」と冗談とも本気ともつかない口調で尋ねられたこともあります。

 「腹八分目」や「中庸の徳」といった価値観がどこまで今の米国に通じるかは分かりません。しかしまるで「毎日が投票日」のような際限なき対決モードに辟易(へきえき)し、本格的な第三党の登場を望む声も増えているとか。対立が先鋭化しがちなネット時代の風潮を変えるのは難しい話でしょうが、国の分裂を防ぐための知恵だけは尽きていない。そう願うばかりです。
(傍田賢治、NHK沖縄放送局局長)