<南風>心のこもった対応


社会
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 米国のシアトルと聞いて多くの人が思い浮かべるのはイチロー選手のマリナーズでしょうか。私にとっては忘れがたい旅の思い出がある街です。もう20年以上前のことですが、市内のホテル(仮にWホテルとします)で国際会議を取材中、ポケットに入れていた部屋の鍵をなくしたことに気づきました。慌ててフロントの男性に相談すると、一緒に探しましょうと館内を見て回ってくれました。20分ほどして諦めかけたところ「もう一度だけ」と言われ、ある会議室に戻ると、最初は気づかなかった机の下に鍵が落ちていました。

 実はこの時、私が泊まっていたのは別のホテル。取材に出掛けた先で自分の宿の鍵を落としてしまったというお粗末な話でした。宿泊客でもないのに献身的な対応をしてもらったことに感動し、以後、Wホテルのファンになったことは言うまでもありません。

 この秋、初めて沖縄に遊びに来た息子にもちょっとした出来事がありました。大学の友達三人と那覇から北谷方面に向かうバスを待っていたらしいのですが、なかなか来ません。すると通りがかったタクシーが「行き先までのバス代と同じ金額でいいよ」と言って乗せてくれ、メーターが四人分のバス料金に達すると、あとは目的地までサービスしてくれたそうです。「東京じゃありえないよね」というのが全員の一致した感想でした。

 「おもてなしと口に出したらおしまい。言わずに行動してこそ本来のおもてなし」というのは、ある俳人の方の言葉です。訪れた街の印象を決めるのはホテルやタクシーだけでなく、恐らく出会う人すべて。私も観光客から道などを尋ねられたことは一度や二度ではありませんが、どこまで気持ちのこもった対応ができていたのか。思い出せば思い出すほど恥ずかしくなってきました。
(傍田賢治、NHK沖縄放送局局長)