<南風>ウサギの餅つき


社会
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 昭和、平成、そしてまた今年と、三度も変わる年号の中を、私は障害者というハンディーにさいなまれながらも生きて来た(イヤ生かされて来たのだ)。私の幼児期はまだ、福祉という言葉さえもなく「かたわの子、役立たずの子、穀潰(つぶ)し」などと言われ、さげすまれた。幼い私の命まで奪おうとする戦渦の中を必死で守り育ててくれた亡き母を思う時、「命」の重さとその大切さを感じずにはいられない。

 最近の事件や出来事に「命」という文字があまりにも軽く扱われているのに驚いている。もちろん、無意識ということも中にはあるかもしれない。しかしそれに無関心ではならない。

 先日、中村敦夫氏にお会いした。彼は「木枯らし紋次郎」やニュースキャスターなどでお名前は知ってはいたが、今回「線量計が鳴る」のテーマで原発についての朗読劇をされた。2時間に及ぶその語りは、私たち聴くものの魂を揺さぶり、衝撃を与えるものであった。

 私は数年前ある原子力開発の専門家から聞いたことを思い出した。もし大きな地震や何かで、炉の1カ所でも破壊したら3分間で日本全土は汚染されると…。中村氏の朗読劇でそれを身近に感じ、想像した。

 人間の科学的能力によってすべてが可能性に向かって飛躍している現在、歩けない私に電動車いすが与えられ、AIが言葉をしゃべる。もちろん、それを認めないわけにはいかない。

 でも、その先は終わりのない欲望でしかない。国と国、人と人が争い殺し合い、奪い合うために武器や原子力をつくり、それを売るために必要以上のものを考え得ようとする。宇宙服を着けた人が月に行き、ウサギの餅つきの昔話を消してはならない。足元に咲く優しい小さな花々を忘れてはならない。

 幼い大切な子どもたちに戦いのない優しい夢のある社会をと願ってやまない。
(木村浩子 歌人、画家)