<南風>息吹き返した窯


社会
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 ムーチービーサーにしては暖かかった1月11~14日の4日間、私はうるま市石川の穴窯にいた。この窯は使われなくなった、いわゆる廃窯だった。その窯を友人たちと使わせてほしいと家主にお願いした。

 家主は傷んでいた窯小屋をすぐに使えるまでに修復してくれた。友人が作業場として借りているこの窯を仲間6人で今回初めて焚(た)くことになった。しばらく眠りについていた窯に火が入るとわかると、家主をはじめ、その友人たちが様子を見に訪れた。手作りのムーチーを差し入れたり、写真を撮りたいと2日間通う方もいた。

 今回の窯焚きはゆっくりと温度を上げていく。この窯では初めての窯焚きだった。そのため皆手探りでの作業だった。経験でしかわからない、感覚だけが頼りだった。このようなときには経験を積んだ方がいることは何よりも心強かった。

 火の勢いがピークに達し温度が上がった2~3日目、変わりゆく炎の姿に私たちは高揚した。傍らで写真撮影に来た方のまなざしもわれわれに劣らぬものだった。そこにいる者すべてが火に魅せられ、おのおのの思いが昇華されていくようだった。この窯を作り火を焚いていた方を私は知らない。が、ここで作業しているとあたかも対話しているような感覚にもなるのだった。

 息を吹き返した窯は人を集め、人を熱くさせた。窯場は一人ではできない共同作業だ。一人工房で作業している時間とはまったく違う時間をここで過ごした。そして、その窯を取り巻く方々から支えられていることにも胸が熱くなる。

 薪(まき)窯で出来上がったものの魅力もあるが、私は窯に人が集まる雰囲気や火を相手に皆で試行錯誤する工程そのものにも魅力を感じている。窯出しは21日、私はどんなものと出会えるだろう。
(山本憲卓、陶芸家)