<南風>後世に残せるものは


社会
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 「僕はもう手遅れだ」と肩を落としうつむきながら年配の男性がつぶいた。1年以上もアンコール上映を繰り返している映画『人生フルーツ』の感想がそれだ。この作品は建築家である津端修一英子夫妻の暮らしを映したドキュメンタリー映画。

 かつて日本住宅公団でエースだった修一さんはさまざまな住宅や団地、都市計画に携わった。1960年代には自然との共生を目指したニュータウンを計画したが、経済優先の時代がそれを許さず、完成したのはかまぼこを並べただけのような無機質な大規模団地。修一さんは仕事から距離を置き、土地を買い家を建て、雑木林を育て畑を耕し、次世代に土を残していくという生き方を選択した。

 40代半ばで本作に出合えた私は、津端夫妻の生き方に共感した。私なりに後世に残せるものって何だろうと考えるきっかけをもらえた。私がシアタードーナツで上映する作品を選ぶ基準がある。客の喜ぶ顔がイメージできるかどうか。作品が持つテーマを求めているコミュニティーが存在するかどうか。だから「僕はもう手遅れだ」という笑顔がでない感想には戸惑った。

 彼が作品から受け取ったメッセージは「あなたは何を残してきたの」だったかもしれない。その感想がきっかけで映画『人生フルーツ』を見てほしい人々の顔を改めて想像したら、働き盛りで忙殺された時間を過ごしている方だ。上映時間91分。ほんの少し立ち止まって皆の未来の事を考えるきっかけにしてほしい。これからの社会をつくる学生にもお勧めだ。きっと皆の胸を熱くさせると思う。

 「手遅れ」に気付いてもできることが必ずあるはずだ。時代に翻弄(ほんろう)されながらも、皆こつこつできることがある。津端さんの生活の半径内の様子が海を飛び越えて「今」を生きるわれわれの未来を想像させてくれるのだから。
(宮島真一、カフェ映画館「シアタードーナツ」経営)