<南風>パニ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 英会話サークルの皆さんと指導してくださる先生の故郷であるネパール料理を食べに行った時のこと。先生はお店の人に空になったコップを指さし「パニ」と目くばせした。「パニ」はネパール語で水のこと。次回、お店を訪れた際「パニ」を使ってみる。お店の方はニコニコとコップに水を注いでくれた。ネパールで死にそうになることがもしあったとしたら、「パニ」とつぶやこう。世界中の「水」という言葉を知りたくなった。

 最近、ニュースを目にする度に暗い気持ちになる。幼い子どもや老人、立場の弱い人たちへの悲惨な暴力、人権侵害。胸が痛む。私にできることはなんだろう。「だれひとり取り残さない」というスローガンのもと、2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)のひとつに『安全な水とトイレを世界中に』という項目があり、さらに、水に関連する生態系の保護・回復を行うという具体的な達成基準がある。

 水は生命の維持に不可欠だが、現在の私たちには、あたりまえすぎて、その重要性を深く考える機会が少ないように思われる。湧き水に関して言えば、イメージを聞くと、癒しや安らぎといったものが多くあげられ、直接、命に結びつくような感じはしないのだが、清らかな水に触れた時のあの幸福感は、複雑な現代社会を生きる私たちにとって、とても重要な役割を果たしているように思われる。

 人はなぜ水に惹(ひ)かれるのだろう。もしかするとそれは母親の胎内にいた時の安心感。水に触れた時、人はその感覚を取り戻すのではないだろうか。きれいな水に触れた時の目の輝きは、きっと誰もが共感できるはず。その感性が、隣にいる人、そして世界中の人々とつながるきっかけになれば「だれひとり取り残さない」世界の実現につながるはず。私はそう信じたい。
(ぐしともこ、湧き水fun倶楽部代表)