<南風>丸太のバス停


社会
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 沖縄の難しい地名の一つに「勢理客」が出てくる。確かに自分も「じっちゃく」とは読めなかった。その勢理客のバス停は国道58号沿いにあるが、これを見て違和感を覚えた方はいるだろうか。

 私も最初はぼんやりと眺めていたのだが、よく見ると丸太のようなもので組まれていて屋根がついており、丸太のベンチまである。なぜここだけ、このデザインのバス停なのかが、ある時から気になり出した。ちょうど、ここにはNTTグループのビルが隣接しているので社員に尋ねてみると、なんと、かつて勤めていた社員らが有志で作ったというから驚いた。

 当時バス停には屋根がなく、近隣にも雨よけとなる場所がなかったため、バス待ちの人たちがずぶ濡れになる光景を彼らはよく目にしていたらしい。そこでバス関連団体などに問い合わせたところ、屋根の設置などの予定は無しとのことだった。これを受け、廃材を利用して独自に製作することを計画した。上司や会社に了解をもらい、バス関連団体からも許可を得て作業に取りかかった。

 昔は電柱も木でできていたが、この木柱の廃材などを利用して、手作りの丸太のバス停が完成したのは平成6年のことである。平成が終わろうとしているが、これも平成時代の小さな産物だろうか。製作者たちの遊び心か、地面には電電公社とNTTのマンホールのふたが仲良く並んでいる。これも会社の移り変わりを感じる一コマである。

 ちなみにこれを率いた社員は既に退職しており、今は波照間島でこれまた手作りで建てた民宿のあるじをしている。

 私にとっては未踏の地である波照間島だが、訪ねた際は幻の「泡波」をグラス片手に、あるじが語る丸太のバス停の思い出話に浸りたい。

(畔上修一、NTT西日本沖縄支店長)