<南風>夏の窯焚き


社会
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 季節はうりずん、4月に入り一気に気温が上がり自宅ではクーラーをつけるほど暑い日もあった。日差しも強さを増し、外遊びをした子どもたちの手足は早速日に焼けている。これから長い夏がやってくるのかと思うと私はため息が出てしまう。風通しが決してよくない私の工房は湿度も高く夏は酷暑だ。

 しかし、内地の寒さに比べたら沖縄は陶芸をする環境には恵まれているとは思う。内地では水は冷たく手は霜焼けし、粘土や釉(ゆう)薬は凍ることもあると言う。人生の半分ほど沖縄で生活してきた私には到底想像もできない。沖縄では風を冷たいと感じることはあっても、水が冷たすぎて触れたくもないと感じたり、手がかじかむ感覚ももう私は忘れてしまっている。

 私は県外の人間だが、すっかりからだは沖縄仕様、この先暖かい沖縄の地を離れることはないんじゃないかと今のところ思っている。だが、暑いものは暑い。暑いのは工房だけではない、夏に焚(た)く窯焚きの暑さは尋常ではない。最高で1300度近くまでなる火を相手にするのだから、サウナどころの騒ぎではない。とっとと温度が上がりさっと終わってほしいと心のなかでは思っているが、夏の窯焚きはそうもいかない。

 梅雨明けの湿気をたっぷり含んだ薪(まき)や窯はなかなか温度が上がらない。温度が上がるのに時間がかかると、立っているうちは意識朦朧(もうろう)としてくる。もうこんな暑い思いはしたくないと思うのだが、火をみつめる高揚感、焚きあがったときの達成感から、また焚きたいと思ってしまう。

 私はマラソンを走ったことはないが、ランナーズハイのような感覚に近いのかもしれない。それでもやはり真夏の窯焚きはできればやりたくない。以前失敗に終わったうるま市石川の穴窯をどうにか暑い夏が訪れる前に焚きたい。
(山本憲卓、陶芸家)