<南風>卵の殻を破らないで(下)


社会
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 半年もたたないうちに、娘が笑顔を取り戻し、そこから私たち親子の関係は劇的に変わりました。

 私は不登校の娘を持つ不幸な母親から、娘の笑顔と信頼を取り戻した幸せな母親になりました。娘が学校に通わないという選択を受け入れたことで、それ以上悩むことはなくなりました。娘が不登校だったおかげで、今まで知らなかった世界を知り、価値観が広がりました。その後、娘は通信制・単位制高校に入学し、海外留学を目前に控えています。

 自然界において親鳥は、ひながかえるまでひたすら卵を温め続けます。雨が降ろうが、嵐が来ようが、ひなが殻を破り出てくるまで温め続けます。以前の私は、娘という卵を温めていましたが、周りのひながかえるのに、自分のひながまだかえらない、どうしよう、大丈夫だろうかと不安になり、思わず卵の殻を私が破ろうとしていました。でも、そんなことをしたら、外界に出る準備が整っていない未熟なひなは死んでしまいます。

 もし私があのまま、娘の卵の殻をつつき続け、破ってしまっていたら、娘は今私のそばにはいなかったでしょう。親鳥のように、何も疑わず、かえると信じて温め続けることが親の役割なのだと思います。そして、娘が私を見捨てずに、親として育ててくれていることに心から感謝しています。

 しかし時々、一生懸命に温めている横から、容赦ない批判の強風が吹きつけ、親鳥の体力を奪ってしまうこともあります。どうか、卵をかえそうとしている親鳥にも、柔らかいわらの差し入れや、栄養となる言葉をかけてほしいのです。

 現代社会は早さ、正確さを常に要求されます。私たち大人は、それを子育てに当てはめていないでしょうか。子どもたちを信じて待つ力を持てますように。
(糸数未希、NPO法人にじのはしファンド代表理事)