<南風>食のアトリエ


社会
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 私は一人暮らしをしている。もちろんCP(脳性まひ)重障者のため生活のほとんどをヘルパーさんに委ねるしかない日々である。

 1LDKの住まいで狭いキッチンだが、私には楽しい空間なのだ。

 まず朝、目覚めた時に思いうかぶのは冷蔵庫の中である。残り物や使ってみたい物でいっぱいの中の物をあれこれ考えながら1日が始まる。

 私は幼い頃から祖母に育てられたせいもあって、食べ物を捨てることができないのである。物があふれる今の時代に、よく人から笑われることも多々あるが、キッチンではその度に低い私の鼻は「ハナタカ」になるのだ。

 本来なら捨てられる野菜の芯や皮やその他もろもろを生かしてアレンジすることによって、他にはないそのそうざいの持ち味が味わえるのだ。それは芸術の世界も同じだと思う。

 あえて私はキッチンを「食のアトリエ」と言いたい。私たち人間に与えられている想像力を表現できる場所だと思うからである。 長年の親友Nの生き方にも共通している。彼女は日々の生活の中から海では貝殻、山ではころがる木の実、古着などを生かし再生して、素晴らしいアクセサリーや洋服をデザインして、あちらこちらで個展を開いている。素晴らしい才能の持ち主なのだ。

 「モッタイナイ」精神を、Nや私たちに身をもって教えてくれた祖母たちに感謝しなければと思う。食のアトリエで自分らしい味の作品に気づき、味の作品を試み高めて行く喜びと楽しさを忘れてはならない物の大切さを今こそ忘れてはならない。これからも感じ続ける私でありたい。

 日々ヘルパーさんたちの心と手を借りながらも、それを表現できる要素のすべてがそなわっている私の沖縄だから。
(木村浩子 歌人、画家)