<南風>勇気と階段とユンタク


社会
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 「この階段きついね。上がるのにひと苦労するさ」と、こちらが「いらっしゃいませ」と声をかけた後によく返って来るこの言葉。シアタードーナツは建物の2階にあり、入り口は胡屋バス停から3歩のところで最高の立地なのだが、扉を開けるとすぐにお目見えする、10段ほどの少し急な階段は年配の方にはしんどい。半ばクレームのような感じでいわれることもあるので本当に申し訳ない気持ちになるのだが、ここは明るくコミュニケーションのネタにしている。

 「運動不足の解消になるはずよ」「もうかったらエレベーターつくってもらうから映画たくさん見に来てよ」「はい頑張って。ドーナツとジュースがおいしくなるよ」などなど。映画を見に来るほど元気な方々なので大抵は笑ってくれる。そうやって最初に距離を縮めておくことで、観賞後の映画の感想を聞きやすくなるし、話も弾む。

 ある日、ひとりのおばあさんが、ゆっくりと階段を上がって来た。いつも通りのユンタクの展開になると思いきや「ここで映画が見られるの前から気になっていて友達からもお勧めされたけど、初めて来るから緊張するさ」。この言葉を聞いて私は本当に感動しました。ということは、おばあさんは勇気を振り絞って来たの、と聞いたら「そうだ」という。

 確かに初めて行く場所は勇気が必要なことがある。

 私が学生の頃、国際通りの地下にあった小劇場「ジャンジャン」を思い出した。そこへ行けばすてきな時間を過ごせるはずだと思われているとしたら、これからも素晴しい映画をチョイスしなくては。そんな年配の皆さまだけにお勧めするわけではありませんが、現在上映中の映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、とある人生の階段を描いています。

(宮島真一、カフェ映画館「シアタードーナツ」経営)