<南風>始まりはここから


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 空に向かって「暑いよ」と話しかけてしまうほどのここは、太陽の国イタリア。日差しに照らされ不思議と色濃くなる街並み、大きな声で陽気に笑う人を横目に、汗ばむ手で荷物を抱える私は、1カ月にわたる日本での本番を終えてイタリアの自宅へ向かう電車の中です。

 現在、ピアノで音楽留学中ですが、有り難いことに毎年、日本各地で演奏させていただいています。中でも沖縄公演は、ヨーロッパにいながらも常に次回の曲目を考えたり、本番までにレベルアップをしていたい!と思う大切な存在となっています。

 そんな私は国内外で沖縄について聞かれた時に必ず伝えることがあり、それは名所でも郷土料理でもなく、この島の人の温かな心です。戦後、悲しみの中にいた県民一人一人が命を、この島を大切にしたいと強く生きた証しが私たちの笑顔であり、無条件に守り継がれる伝統芸能や文化は何にも代え難い尊さがあります。

 私も幼いころ7年間、多くの時間をエイサーに捧(ささ)げた身ですが、気がつけば遥(はる)か遠くの西洋クラシックにどっぷり浸る人生になっていました。ですが不思議なことに、離れる程に沖縄の文化の素晴らしさに気づくようになりました。

 特に民謡はその土地の人たちを映し出し、歌い育った子たちに土地の精神が受け継がれる。琉球民謡はゆったりとした時間に乗せて、湿気を帯びた風と、優しさに包まれた歌詞が口ずさまれます。素朴な歌に託された偉大な人間像は、どんな成功よりも私の目指すものです。世界へ飛びたいと思うのも沖縄への愛があるから‥どこにいても始まりは沖縄(ここ)から。

 と言うわけで、人生初の連載ですが、半年間、皆さまに充実したお話ができるよう努力致します。ゆたしくうにげーさびら!
(下里豪志、ピアニスト)