<南風>俳句と経営


社会
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 「全く違う業種で大変ですね」とよく言われる。県庁、りゅうせき、広告会社と転職、異動の度に、さまざまな業種業態の仕事に就いてきた。新規事業にかかわることが多かったこともあり、新しい分野に挑戦することに抵抗はない。どんな人に出会えるのだろう、どんな仕事なのかなとかえって好奇心が湧く。

 10年前に始めた俳句も同じだ。「俳句仲間で波照間島に行くんだけど一緒に行かない?」と句会「ふぅ」を主宰する前田貴美子さんに誘われたのがきっかけだ。

 一面のサトウキビ畑と海。「ざわわというのが甘藷(かんしょ)畑の音ですか」とつぶやいたら、「俳句になってるね」と同行の建築士の中本清さんに言われた。その気になった。主宰や俳句仲間に励まされ、今に続いている。

 執筆が決まって「南風」について調べていると、次の句が目に留まった。

 南風(みなみ)吹くカレーライスに海と陸 櫂(かい)未知子

 暑苦しい風の中で食べるカレーライス。そこに海と陸を見出す。海はカレー、陸はライスだ。噴き出す汗は海に落ちる。食が進むにつれて地形が変化していく。南風が南の島へ旅立たせてくれる。カレーの一皿が、匂いと共に音楽と映像となって大航海時代に誘(いざな)ってくれるようだ。

 俳句と経営、全く違う世界のように見えるが、参考になる点が多い。制約された17文字に、日々の生活を違った角度から見る視点、時空を超える想像力、極限まで省略した表現力が凝縮されている。

 これらは会社経営でいえば、経営理念、事業計画、日々の経営実践そのものだ。そして、伝える相手がいる。受け取った相手は、カレーの一皿が南の島に飛ぶように、五感のままに想像力をふくらます。未来の姿が映像化され、新たな道が見えると、日々の仕事が新鮮になるのだ。

(稲嶺有晃、サン・エージェンシー取締役会長)