<南風>海を見上げる。


社会
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 はじめて子どもたちとお芝居をつくったのは、15年前、那覇市での企画だった。私も試行錯誤だったし、子どもたちは人間関係に悩んだり、照れたり、いろいろあったけど、最後はいきいきと本番を演じた。とても素敵な舞台で、みんな稽古よりも数段いいお芝居をした。子どもは本番に強い、というのは定説だ。

 数年後、宜野座の子どもたちと舞台をつくった。かれらは想定を越え物語の世界にすうっと入る。身体ごと反応する姿が凄(すご)くいい。

 海の底の小さい生き物たちの千年に一度のお祭りの夜のお話。小さい生き物を演じる小さい人たちは輪になって座る。みんなは海の底で暮らしていて、どこにでも自由に行けたりはしないの。ずっとそこにいる。だからね、美味(おい)しいものや、綺麗(きれい)なもの、いい知らせは、いつも海の上の方からやってきて、みんなのところに降りてくるんだよ。自分で取りに行けないからずっと待っているんだよ。あ、上から丸いお菓子が落ちてきたよ。見て! と声をかけた瞬間、一斉についと頭を反らせてまっすぐに上を見た。それが美しくて泣きそうになる。動きに濁りがない。迷いなく物語のなかにいて、さっと身体が動いて、見えない甘いお菓子を一緒に見る。

 そういう姿をたくさん目撃しながらの芝居づくりはとても幸せで、でも悔しいのは、そうした瞬間はそこでしか見られないこと。誰かが上手に記録してくれたなら、と夢に見ていた。ちなみに、そのときの宜野座の子どもたちは本番であがりまくり、定説を覆した。それも可愛かったけど!

 この夏、名護の子どもたちと映画をつくった。物語に出会ったそのままの反応を映像に収め、それを台本部分と組み合わせて小さい映画にする。宜野座で見た夢が叶(かな)って嬉(うれ)しい。お披露目は今週日曜、名護の手作り映画祭「なごうらら」で。
(上田真弓 俳優、演出家)