<南風>「かぎやで風」は身を助く


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 私の住んでいる中城村南上原は村で唯一の市街化区域で、近年人口流入が激しく、地域の結びつきが弱くなっています。そこで自治会長の富島初子さんが考え出したのが、南上原の歴史にゆかりのある組踊を作って地域の絆を強くしようというアイデアでした。

 国立劇場で活躍する組踊伝承者の東江裕吉先生と新垣悟先生に依頼し、創作組踊「糸蒲(いとかま)の縁」の脚本が完成しました。同作品の着想を得たのが琉球王府の史書『琉球国由来記』で、同書によると、南上原は古くは糸蒲と呼ばれ、田芋の発祥の地とされています。「糸蒲の縁」は南上原を舞台に、身分の違いによって阻害されていた男女の愛が、田芋の発見によって実を結ぶというラブストーリーです。

 南上原では7年前に組踊保存会を立ち上げ、東江先生、新垣先生、比嘉侑子先生の指導のもと稽古を積み重ね、これまでに8回上演を行っています。私も上演の手伝いをしたことがきっかけで入会し、小僧役で出させてもらったりしています。

 稽古の最初に必ず踊るのが「かぎやで風」です。「かぎやで風」はすべての琉球芸能の基礎だそうです。当初、私の「かぎやで風」はロボットが踊っているようだとみんなから笑われていました。しかし、先生方の丁寧な指導のおかげで、何とか「様になっているよ」と言われるまでになりました。

 今では資料館の新年会などで踊るのが十八番になり、昨年当館で開催された「平和のための博物館市民ネットワーク全国交流会」や今年の「開館30周年記念祝賀会」でも踊らせていただきました。参加された県外の方から「館長さんによる琉球王朝の優雅な踊りを見せてもらった」という感想もいただきました。

 芸のひとつもなかった自分ですが、まさに「かぎやで風は身を助く」だと感謝しています。

(普天間朝佳、ひめゆり平和祈念資料館館長)