<南風>スプリンクラーとカーズク


社会
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 サトウキビの緑の葉と、青い空のコントラストが美しい朝。今日も良い天気になりそうだ。畑では、スプリンクラーの水がシャーッ、シャーッと弧を描き、キビの上にまかれている。現在、うちの周りのほとんどの畑にはスプリンクラーが設置され、栓をひねれば週に一度、散水ができるようになっている。地下ダム(宮古島の地下には水を堰(せ)き止める、やぐみ(偉大な)ダムがある)から農業用水が引かれているのだ。私が子どものころにはなかった風景だ。

 そのスプリンクラーが回っている畑の近くに、昔、カーズクと呼ばれた、だいばん(大きな)沼があった。水道のなかった時代、集落の人たちで手作りした水をためる沼だ。それは集落の南側にあった。芋や人参などを洗ったり、時には牛や馬も洗っていた。そして、格好の子どもの遊び場でもあった。雨が降ればたくさん水がたまり、牛や馬の糞が浮かぶ中で水遊びを。日照りで水がすっかりなくなったときは、土手になっている部分からトタンの端切れを敷いて滑り降りる遊びをした。トタンの先で、パンツをぷーかした(パンツに穴をあけた)のも楽しい思い出だ。また、集落の北側には湧き水からできた小さなカーズクもあった。水草がそよぎ、いつでも清らかな水を湛(たた)えたカーズクで、飲み水や水浴びに使っていた。

 時が経ち、使われなくなった南側のカーズクは埋め立てられた。北側のカーズクは自然のもの。今でもあるだろうと見に行ったが畑になっていて、当時の面影はどこにもなかった。

 昔が良かったとは言わないけれど、失ったものへの愛着は年ごとに募るようだ。宮古に帰ってきて5年余り。豊かで便利になった宮古を喜びつつ、昔の生活があっての今だということを忘れずにいようと思っている。
(松谷初美、宮古島市文化協会事務局長)