<南風>にふぇーでーびる


社会
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 沖縄のお母さんたちが最も輝く夏の大イベント、旧盆がやってきました。この時期が近づいてくると「台所の掃除をしてる」やら「今日は和室の掃除」と、ご先祖様がこの世に気持ち良く遊びに来られるようにと、用意にいそしむ母のメールは、なんだかそわそわ。

 父が長男で仏壇のあるわが家は、普段のんびりしている母が、驚く程のエネルギーで大活躍します。

 格好良いスーツで働くキャリアウーマンでもなければ、音楽家を育てる厳しいピアノ教師でもなく、保育士として働く母はおっとりとした性格が取りえで、私ものびのびと育てられました。勉強しなさいとも、ピアノの練習をしなさいとも言われた事がありません。

 ですが、一つだけ徹底して教えられてきた事があります。それは、先祖への感謝を忘れないこと。私たち家族、親戚のみんなが健康で生きていられるのは先祖に守られているからだ、と話す母のまなざしはいつも凛(りん)としています。

 私は、中学生のころから演奏会の当日は、早起きをして仏壇を掃除し、お花を供えて、静かに手を合わせ続けてきました。それ無しで舞台に立った事は一度もなく、ヨーロッパでも舞台袖で私は目を閉じ、感謝を述べ、母は実家で線香を立てています。

 音楽のことについては母から学んだ事はないけれど、亡き人を敬い、文化を継承する強い心をその背中で私に教え続けてくれました。沖縄の女性の鏡…なんて言うと褒めすぎか! 新聞を読む暇もないお盆、この記事を読めるのは一息つく頃でしょうか。

 お父様方、奥様より先にこの投稿を読んでいるなら今夜は一言、お疲れ様と伝えてみてはいかがでしょう。ご先祖様も驚くご馳走が出てくるかも知れませんよ(自分が食べたい物をさりげなく伝えておくのもお忘れなく!)。
(下里豪志、ピアニスト)