<南風>音楽の祭典プロムス


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 バイオリンとフルートの音色が美しいハーモニーを紡ぎ出し、パイプオルガンの重厚な響きを体で感じながら目を閉じてみる。まるで、ふわふわとした芝生の上に横たわっているようなリラックス感で、夢見心地になる。眠ってしまわないように、天井から吊(つる)された無数の巨大なマッシュルームを数えてみる。音響を良くするために吊された白くて丸い反響版はロイヤルアルバートホールの名物だ。

 ロイヤルアルバートホールを中心に行われるプロムスは、世界最大のクラシック音楽の祭典。世界中から著名な音楽家たちが集う。毎年7月から9月までの夏の風物詩的なイベントだ。普段はクラシックのコンサートに行かない人たちでも、チケットを安くして親しみやすい雰囲気で楽しんでもらおうと始まり120年以上も続いている。期間中コンサートが毎日行われ、立ち見席は6ポンド(900円ほど)で買える。

 9月の最終日は「ラストナイトプロム」と呼ばれ、もの凄(すご)い盛り上がりを見せる。仮装した聴衆が色とりどりの各国の国旗を振り回し、まるで甲子園の応援団かと思うほど。「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン(国歌)」を始め、英国人の心の琴線に触れる名曲の数々が次々と演奏される。

 チケットはなかなか手に入らないので、毎年テレビ放送を見ているのだが、英国人のパートナーは「プロムスが終わると、もう夏の終わりだね」と哀愁に浸っている。

 3週間前は「1969年 夏の音色」と題したアポロ11号月面着陸50周年を記念したコンサートに赴いた。アレサ・フランクリン、マービン・ゲイ、そして最後はやっぱりデヴィッド・ボウイ「スペイス・オディティ」。アフリカ音楽や、レゲエ、ジャズなどなど、クラシックからジャンルを超えてプロムスは毎年進化している。
(渡名喜美和、英国沖縄県人会会長)