<南風>ジュゴンに関するいくつかの話


社会
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 終戦後の一時期、黒島ではジュゴン(島では「ザン」と言う)を捕獲していたそうです。関係者の証言によると、漁場は西表島の東部、仕掛けは発破(爆薬を爆発させ魚類を捕獲する方法)でした。300キログラムほどの大型獣で、味はすこぶる美味。昭和30年ごろには、発破漁の取り締まりが厳しくジュゴン漁は止めたそうです。

 私の親友・宮良一美君は亀の捕獲漁をしていた昭和40年ごろまで、八重山近海で何度かジュゴンに出合ったとか。ジュゴンが立ち泳ぎをして胸鰭(むなびれ)=前肢(まえあし)で赤ちゃんを抱きかかえ授乳している姿は、人間にそっくりで微笑ましくもあり神々しくもあり、とても捕獲する気になれなかったと話してくれました。ジュゴン親子へ優しいまなざしを向け貴重な体験談を残して、彼は去年足早にあの世へ旅立ちました。合掌。

 ジュゴンは、古来、“人魚”に擬せられ、その希少性ゆえに天然記念物に指定されるなど、世界的にも貴重な存在です。名護市辺野古に面する大浦湾でもジュゴンの遊泳する姿が、最近まで確認されています。それなのに、日本政府は県民の意思を無視し、強引に大浦湾を埋め立て、新基地の建設を進めているのです。私たちは、反戦平和の視点からはもちろんですが、豊かな自然を守るためにも、政府の横暴を断じて許してはなるまい。

 折も折、8月19日の本紙は、全国高校生短歌大会で、昭和薬科大附属高校2年生國吉伶菜さんの作品の最優秀賞を報じています。

 「碧海(へきかい)に コンクリートを流し込み 儒艮(じゅごん)の墓を建てる辺野古に」と詠んだ國吉さんのみずみずしい感性と透徹した時事批評に共感し、心が震えました。

 ミュージシャンで龍宮神ジュゴン信仰を唱え、ジュゴンの保護活動にも熱心に取り組んでいる畏友・海勢頭豊氏に想いを馳(は)せながら、本稿をまとめました。
(當山善堂、八重山伝統歌謡研究家)