<南風>サービスが伝説になるとき


社会
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 先日、昨年引っ越した時の荷物を整理していると衣装ケースから古いワイシャツが出てきた。襟のタグにはNordstromとプリントされている。約30年前米国ロサンゼルスに赴任していたとき、衣料用品の高級百貨店ノードストロームで購入したものだ。

 サービスが「伝説」として語られている百貨店だ。数ある「伝説」の中で有名なのが「タイヤ伝説」。

 ホームセンターの後に移転してきたノードストロームに、あるお客が「ここでタイヤを買ったのだが返品していいか」と来店。この店では、タイヤを取り扱ったことは一度もなかったにもかかわらず担当した従業員は返品に応じたという。

 「本当かな?」と半信半疑の私は当時住んでいた家の近くの店に行った。靴コーナーでは20代の人懐っこい店員が対応してくれた。靴のサイズや好みを聞くと私に椅子に座るように勧め、いくつか靴を選んで持ってきてくれた。そして、なんとひざまずいて靴を履かせ、靴ひもを結んでいく。「ええっ、ここまでやるの」と驚くばかり。いくつか試し、店内を歩いてみたが、幅広甲高の私にフィットする靴はなかった。

 彼は、ちょっと失礼と言ってカウンターに戻り、一枚のメモを持ってきた。そこには私の足に合う靴を取り扱っているかもしれない近くの靴屋の住所と電話番号が記されていた。残念ながらその店にも私に合う靴はなかったが、ノードストロームの「伝説」の一端に触れた。

 ノードストロームの就業規則は一つしかない。【どんな状況においても自分自身の良識に従って判断すること。それ以外のルールはありません】(サービスが伝説になるとき/ベッツィ・サンダース)。お客様に喜んで帰ってもらうことに取り組んでいる会社と店員。沖縄でもこのような店に出会えると期待している。
(稲嶺有晃、サン・エージェンシー取締役会長)