<南風>鉄平さん、ありがとう

 広島県の紙芝居作家・いくまさ鉄平さん(62)は、「東日本・津波・原発事故大震災」発生直後から福島県に通い、150本もの紙芝居を作り震災の教訓を伝えている。今年7月、いくまささんを福島県郡山市に迎え、紙芝居の原画展とトークセッションを開催、私が制作を依頼した作品について意見を交わした。タイトルは「ひとつ」。

 津波で亡くなる45分の間に5人の命を救った高校生の実話。「亡くなった人を主役にしたくない」と、いくまささんは最後まで制作を躊躇した。

 震災当日、県立いわき海星高校2年生だった工藤盛人(もりと)くんは、大きな揺れが収まると自宅を飛び出し母の実家に向かった。祖父母を助けるために。途中、海沿いに知人の女子高生を発見し手を引いて山側に向かい、偶然来たバスに彼女を乗せた。すると今度は、お年寄りをストレッチャーに乗せ、道に迷っているデイサービスの人たち4人と遭遇。盛人くん自らストレッチャーを押して高台へ、安全を確認するとまた海岸に向かった。その15分後、いわき市平豊間に7メートルを超える大津波が襲った。盛人くんは2日後遺体で発見された。祖父母も亡くなった。

 かつてこの紙芝居を見た盛人くんの母・弥生さんが言った。「これを見た人が盛人と同じ行動をとる必要はない。盛人には生きていてほしかった。息子を英雄にしないでほしい」と。

 いくまささんが言った。「彼の勇気ある行動を通して、何を後世に伝えるかを悩んだ。英雄にしないで!という母の言葉は重い。盛人くんに助けられた人たちの危機管理の甘さを指摘する声があるが、それは誰にでも言える事。母の悲しみを今後の防災意識向上に役立てるという大和田さんの言葉を聞いて安心した」

 「ひとつ」は、盛人くんが眠る墓標名。10月1日は25回目の誕生日。
(大和田新、フリーアナウンサー)



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