<南風>拝啓、バルト君

 ある親切な方が、さまよう君のお母さんを保護した半年後に、君は生まれたそうだ。君まで育てることはできそうもない。けれど殺処分だけはなんとか避けたい。その方は君を大事にしてくれる家族を一生懸命探し、僕たちと出会ったんだ。

 初対面はよく覚えているよ。兄弟たちはみんな人懐っこくてすぐに近寄ってきたのに、君だけは隅で震えていたからね。“この子は一番人気がないな…”そう思うとむしろいじらしく、結局最も愛想の悪い君を選んだのさ。おかしいね。

 全身真っ黒。瞳も黒。凛々(りり)しい顔立ちから哲学者の名前を頂いたのに、巨体のせいで「ああ、あの外国人力士ね」と言われちゃう。

 君との暮らしで生活は一変したよ。毎朝5時起きのトイレに食事。君の力は強すぎて、今や散歩も僕の役目だ。1日1回、台風以外は必ず一緒に走るね。僕がどんなに仕事や付き合いで遅くなっても例外はなし。おかげで僕はずいぶん健康になった(笑)。

 僕は君から毎日多くのことを学んでいる。仕事から帰るたびに全身で喜びを表す。飛びつき、顔を舐(な)めまくる。出張で数日空けた日には鳴きながら体をぶつけてくる。ひたすらにまっすぐな無私の愛情は、僕の見栄や照れを笑い飛ばす。

 “今を生きる”姿も感動的だ。食べ、走り、吠え、眠る。一瞬一瞬を精一杯に生きる君は、過去や未来に拘(こだわ)り、今を蔑(ないがし)ろにしがちな僕の胸をチクリと刺す。

 わが家に君が来て今年で5年目。きっと僕よりも君のほうがずっと早く天に召されるんだろうな。その時、僕たち家族は悲しくて辛くて、今から泣けてきちゃうよ。けれど僕は胸を張り、笑顔で君を送るからね。だって一生うちの子として君を愛したはずだから。愛情深い君のつぶらな瞳にはいつも僕が映っていたはずだから。それまではよろしく、黒い雑種犬のバルト君!
(砂川亨、昭和薬科大学附属中・高校教諭)



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