コラム「南風」 ストラディバリウスの音色


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 20年ほど前に沖縄市民会館でオーストリアのローランド・ガレイユさんが参加するコンサートがあり、同級生のチタンギター奏者の松田さんを誘いましたが、オーデイオマニアの彼は例のごとく「生演奏よりも自分のステレオの方が良い音が出る」と豪語しました。「まず、だまされたと思い行ってみたら」と説得しコンサートへ連れて行きました。

 曲名は忘れましたが、フルオーケストラで最前列の左側にガレイユさん、右側にNHK交響楽団の主席バイオリン奏者の原田幸一郎さんが立っていて、ガレイユさんが1708年製のストラディバリウスを弾いた途端、他のすべての楽器を抑え込んでまるで独奏をしているかのように聴こえました。後日彼に聞いたら彼も同じようなことを言っていました。
 ガレイユさんは目をつぶって弾いているのに、原田さんは一生懸命力を入れて弾いています。しかし楽器が違いすぎて音が出ていませんでした。その時の私は感動で涙ウルウル状態でした。松田さんもその音に圧倒されたのか「自分のステレオはまだまだだ」と前言を撤回していました。
 僕らのすぐ近くで聴いていた音楽貸しホールの経営者は、ほとんど同じ音を聴いていたのに「子供たちが発表会で弾くバイオリンの方が良い」と言い切りました。方や10万円以下のバイオリン、方や数億円から十数億円もするバイオリン。どう違うのかといえば、それはバランスが違うのです。特に倍音が全然違います。基音の10倍~20倍も高い周波数が含まれます。木が枯れるまでには相当な時間がかかるのです。300年たってから良い音が出る理由があるのです。
 私もステレオを引退したらストラディバリウスを超えるバイオリン作りに挑戦します。できるか? それはやってみなければわかりません。
(知名宏師(ちなひろし)、知名御多出横代表)