コラム「南風」 アートはアートの祭りか


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 ぽかんと花を眺めながら、人間も、本当によいところがある、と思った。花の美しさを見つけたのは、人間だし、花を愛するのも人間だもの。(女生徒)

 今から、10年ほど前。突然、銀天街にやって来た東京の美大生。彼の第一声は、「銀天街は、斎場御嶽のようだ」でした。商店街として、いいことか、悪いことか。とにかく、あんまり、ほかの人には言わないように、口止めしました。
 それから、しばらくして、彼は、仲間たちと銀天街で、アート展を開催し、作品を展示しました。空き店舗前のアーケードの天井に細いビニールひもを無数に巻き付けてあります。まるで、廃虚のクモの巣のように見えました。迷路のようなアーケードの細い路地を上手に利用した表現でした。商店街のみんなは、たぶん、この作品の意味を誰も理解できなかったと思います。
 結果的に、彼の作品は、空き店舗で悩んでいる商店街を明るくするどころか、逆にクモの巣を張って、空き店舗を目立たせてしまいました。みんな無言でした。彼が徹夜しながら、頑張って制作していたのを知っているだけに残念でした。
 夏休みが終わり、彼が東京に戻った後、クモの巣だけが、アーケードに残されました。何人かのお客さんから、本当のクモの巣と間違われて、早く片付けたほうがいいと注意されましたが、なんか片付けてはいけないような気分に、僕らはなっていました。アーケードのクモの巣を見るたびに、空気の読めない彼の思い出話で盛りあがりました。
 今、コザの街には、たくさんの若いアーティストたちがいます。個性的なコザが、さらに個性的な街になるチャンスだと思います。
 ところで、クモの巣の彼ですが、現在、沖縄市役所経済文化部商工振興課で働いています。
(仲田健(なかだ・たかし)沖縄市銀天街商店街振興組合青年部長)