コラム「南風」 大人の背中


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 将来に対する夢や希望を抱いている子どもたちや若者はどれくらいいるだろう。私は、バブル経済崩壊後に高校を卒業した世代で、好景気を体感したこともなければ、素直に夢を抱いていた若者でもなかった。しかし、小学生のころは将来の夢を大きく描くことができた。

 その頃の子どもたちの将来の夢は、宇宙飛行士やプロスポーツ選手、社長やF1レーサーなどなど。もちろん会社員や保育士、看護師、花屋、お嫁さんなど、今と変わらないような夢もあったが、公務員という夢を描いた人がいたという記憶はなく、時代や経済状況の変化に沿うように、子どもたちの将来の夢も変わっていくのかなと感じている。
 大学を卒業したばかりの新社会人たちに話を聞いても、小さなころから世の中暗いニュースばかりで、未来に希望を抱けない雰囲気があったという意見もあり、大人として申し訳ない気持ちになった。また、高校生のキャリア教育の事業を行った際に、正社員は無理だからフリーターでいいと答えた生徒もおり、チャレンジする前に無理と諦めてしまうのは、もしかすると大人の責任ではないかと考えてしまった。
 私も子を持つ親なので、できるだけ自分のような苦労はしてほしくないとか、安定した職業をとかチャレンジというよりは守りに入ったアドバイスを無意識にしていたかもしれない。また、努力や頑張ることがカッコ悪い印象を持つ若い世代もいるというのは、努力した先の達成感や、頑張っている大人の背中を見る機会がなかったのだろうか。
 こんな大人になりたいと、子どもたちに思ってもらえる身近な大人が必要なのだろう。見ていないようで子どもたちは大人の背中をしっかりと見ている。まずは、大人が子どもたちの憧れの対象となれるよう頑張ろう。
(田中美幸(たなかみゆき)、NPOおきなわ共育ファンド代表)